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福岡地方裁判所 昭和44年(む)564号 決定 1969年8月04日

主文

本件各申立はいずれも却下する。

理由

第一、本件各申立の趣旨

頭書請求事件につき裁判官真庭春夫、同白井博文が関与し審判することは不公平な裁判をする虞があるので忌避する。

第二、本件各申立の理由要旨

一、本件特別公務員暴行凌虐ならびに公務員職権濫用付審判請求事件(昭和四四年(つ)第一号。以下本件付審判請求事件と略称する)は、現在福岡地方裁判所第三刑事部(裁判長裁判官真庭春夫、裁判官白井博文外一名の構成する合議体)に係属し、申立人前田光雄および前田利明はその被疑者の一人として各指定されているものである。

二、ところで右第三刑事部は、昭和四三年一月一六日午前七時半過ぎごろ国鉄博多駅において三派系全学連所属学生約三〇〇名と博多駅鉄道公安機動隊および博多駅公安室長(被疑者前田光雄)の要請により出勤した福岡県警察機動警ら隊(被疑者前田利明は福岡県警察本部長)とが接触した所謂博多駅事件に関し、被告人福田政夫に係る公務執行妨害被告事件(昭和四三年(わ)第七一号)を審理し、翌四四年四月一一日右被告人に対し無罪の判決をなした(検察官控訴により目下福岡高等裁判所に係属中)が、当時裁判官真庭春夫は裁判長として、裁判官白井博文は左陪席裁判官として右公務執行妨害被告事件の審理判決に関与していたので、右両裁判官がなおも右博多駅事件を巡り右被告事件と表裏一体の関係に立つ本件付審判請求事件の審理に関与することは裁判官の除斥事由である刑事訴訟法第二〇条第七号所定の所謂「前審関与」に準じ許されないものと考えるべきである。

三、加えて、右第三刑事部は、右公務執行妨害被告事件について、被告人らに無罪を暗示しながら審理を進めたと疑う事情があるうえ、判決においても警察機動警ら隊員らによる警備実施の目的、方法につき強い非難の念を示しているので、右被告事件の裁判に対する偏執の念にとらわれ本件付審判請求事件についても不公平な審判をする虞がある。

第三、当裁判所の判断

一、本件記録に徴すると、被疑者に対する本件付審判請求事件が現在福岡地方裁判所第三刑事部(裁判長裁判官真庭春夫、裁判官綱脇和久、裁判官白井博文)に係属していることは明らかである。

二、そこで、まず付審判請求事件における被疑者が当該付審判請求を審理・裁判する裁判所(以下付審判裁判所と略称する。)の裁判官に対して忌避申立をすることができるか否かについて判断する。

現行刑事訴訟法は、検察官の起訴独占に対する唯一の例外として、刑法第一九三条乃至第一九六条等の罪について検察官の不起訴処分がなされた場合、告訴人等はその検察官所属の検察庁の所在地を管轄する地方裁判所(即ち付審判裁判所)に公平な立場からその事件を審判に付するか否かの決定をなすよう求めることができ、付審判裁判所は右請求が理由あるものと判断したときは該事件を管轄地方裁判所(以下公判裁判所と略称する。)の審判に付する旨の決定をなすべきものとし、右決定によつて公訴の提起があつたものとみなし、該事件が公判裁判所に係属することとなり、爾後指定弁護士において右公訴維持のため検察官たる職務を行うものと定めているのである。即ち、刑事訴訟法の構造からすると、付審判裁判所は公判裁判所とは全くその地位ならびに機能を異にし、言わば捜査官としての検察官の地位・機能に近似するのである。

更に、付審判裁判所の付審判手続と公判裁判所の公判手続とを比較してみても、公判手続が原則として公開のもとに検察官と被告人・弁護人との二当事者の対立構造を基本として展開され、その判決は事件の実体について確定力を有するのに対し、付審判手続は、全くの非公開であるうえ、付審判裁判所の職権による事実の取調べが基本とされ、その決定に事件の実体について何等の確定力も有しないなど、手続面においても付審判裁判所は公判裁判所とは全く異るのである。

現行刑事訴訟法が裁判官が不公平な裁判をする虞があることを理由に忌避の申立をすることができると規定する趣旨は、裁判それ自体が本質的にその使命とする公平なる裁判を裁判所の組織と構成の面から確保しようとするものであるが、先に述べた様に付審判裁判所が公判裁判所とは全く異質の性格のものであること、現行刑事訴訟法が付審判請求事件の被疑者らに付審判裁判所の裁判官につき不公平な裁判をする虞のあることを理由に忌避の申立ができるとする何等の規定も有していないこと、更には一般的にも被疑者に裁判官ならびに検察官に対する忌避の申立を許容する旨の規定を有しないことなどを合せ考えると、付審判請求事件の被疑者およびその弁護人に刑事訴訟法第二一条第一項後段、第二項の適用ないし準用はなく、未だこの段階においては付審判裁判所の裁判官に対し忌避を唱えてその職務の執行から訴訟法上排除するによしないものといわざるをえない。

よつて本件各申立はいずれも不適法であるから、その余の点を判断するまでもなく、却下すべきものとし、主文のとおり決定する。

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